昨日の記事に「日清ラ王問題」が掲載されましたが、今回はこの問題をレヴューしながらフルセット・コンプライアンスついて考えてみようと思います。先ずは、記事から…
電通、CM制作現場の点検態勢見直し 日清ラ王問題で(2010年11月11日8時0分)
山岳でのテレビCMの撮影時に、スタッフが登山者に迷惑をかけていた問題で、CMを請け負った電通の中本祥一・常務執行役員は10日の決算記者会見で「今後は制作会社とのコミュニケーションを欠かさないようにする」と述べ、再発防止に力を入れることを強調した。広告大手による制作会社への実質的な「丸投げ」慣行が、広告主などによるチェックが行き届かなかった要因とみる声もある。
問題となったのは、日清食品が電通に企画・立案を依頼した即席めん「日清ラ王」のCM。制作会社の「葵プロモーション」が撮影にあたった。8月の北アルプスでの撮影時には、環境省の現地事務所が事前にヘリコプターの使用自粛を要請していたにもかかわらず強行。スタッフに山頂への立ち入りを拒まれたとの登山者の苦情もあり、放送を中止していた。
葵の担当者は自粛要請を電通や日清に伝えておらず、広告主として最終的に責任を負うはずの日清は、登山者からの指摘で初めて問題に気づいたという。
電通の中本氏は、会社としてのチェックが行き届かなかったことを認めたうえで、今後は撮影条件の確認を強化するなど、再発防止に取り組む考えを示した。日清の中川晋社長は朝日新聞の取材に、「広告会社に任せきっていたことに欠点があった」。今後はCMの内容について、法令違反につながらないか自社で点検する。
CM制作を下請けにまわす手法は、ほかの広告会社も含め広く定着しており、「広告主の十分なチェックが入らないことも多い」(広告大手幹部)。制作会社が発注元の広告会社や広告主に遠慮して、否定的な情報を伝えないケースもあるという。(南日慶子)
http://www.asahi.com/national/update/1111/TKY201011110090.html
次は、環境省が両者を指導した旨の記事です。
ラ王CM強行撮影、環境省が日清・電通を指導
(2010年10月19日10時14分)
日清食品の北アルプス・槍ケ岳でのテレビCM撮影を巡り、環境省の自粛要請にもかかわらずヘリコプターを使用し登山者に迷惑をかけたとして、同省が異例の文書指導をしていたことがわかった。日清だけでなくCMを請け負った広告会社の電通や、製作会社の葵(あおい)プロモーションも文書指導しており、3社は関係者を厳重注意の処分にした。
日清は8月に槍ケ岳山頂で、ヘリを使って即席めん「日清ラ王」のCMを撮った。製作スタッフが撮影中の約30分間、少なくとも十数人の一般登山者の山頂への立ち入りを拒んでいた。
環境省の松本自然環境事務所(長野県松本市)は、登山者に迷惑をかけないことや、ヘリの自粛を事前に求めていたが、製作会社の担当者が撮影を強行していた。同事務所は9月の問題発覚後に3社に報告を求め、今月6日付で「非常に遺憾」とする文書を出した。
現地の国有林を管理する中信森林管理署(同)も9月に3社を指導し、謝罪文を提出させている。(多田敏男、南日慶子)
http://www.asahi.com/national/update/1019/TKY201010190095.html
さて、本件を時系列で追って見る事にしましょう。
08月03日:槍ヶ岳山頂で日清食品「ラ王」CMを撮影
(事前告知や連絡無しにヘリによる空撮を30分実施;居合わせた登山者は撮影を理由に登頂を妨げられ、頂上にいた人は下山させられた)
↓
08月26日:被害を受けた登山者が朝日新聞(大阪版の声欄)に投書
↓
09月09日:日清食品のホームページにお詫びの意志を掲載(以下引用)
【ニュースリリース】
2010年09月08日 <お知らせ>
弊社商品のCM撮影に関するお詫び
このたび弊社商品「日清ラ王」のCM撮影に関連し、多くの皆様に多大なご迷惑をお掛けいたしましたことをお詫び申し上げます。
弊社および広告代理店は、2010年8月3日に槍ヶ岳の頂上において、男性タレントが同商品を食べるシーンの撮影をおこないました。
撮影にあたっては、地元山岳ガイドの方からの情報も得て、なるべく登山者の少ない時間帯を選びました。
また、ヘリコプターによる空撮を約30分間行いましたが、その際には頂上付近で撮影クルーが登山者の皆様に撮影へのご協力をお願いし、一部の方々には登頂をお待ちいただくこととなりました。
ご協力のお願いは、一部で言われているような、登山者を排除しようとする意図はございませんでした。
しかしながら、お待ちいただいた登山者の皆様には、事前の説明不足から予定の変更等、大変なご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。また、多くの皆様には、ご心配をおかけするとともに不快な思いをさせてしまいましたことを重ねてお詫び申し上げます。
弊社では、コンプライアンス委員会において、当CMの放送自粛と新たな内容への変更を決定するとともに、今後の再発防止体制の強化に努めてまいります。
http://www.nissinfoods.co.jp/com/news/news_release.html?yr=2010&mn=9&nid=2020
↓
日清食品が当該CMのお蔵入りを決定
↓
09月08日:産経ニュースWEB版で報道(以下引用)
日清「ラ王」新CMお蔵入り 山頂で撮影、登山者一時入れず
(2010.9.8 21:36)
日清食品は8日、「弊社商品のCM撮影に関するお詫び」をホームページ上に掲載した。槍ヶ岳で行った「日清ラ王」の新CM撮影の際、一部の登山者に登頂を待ってもらうことを依頼し、「多くの皆様に多大なご迷惑をお掛けいたしました」と謝罪している。日清では9日から新CMの放映を予定していたが、「CMを見ると、不快に思う人もいる」(広報部)と判断、“お蔵入り”にすることを決めた。
ホームページによると、撮影が行われたのは8月3日。槍ヶ岳の頂上で男性タレントがラ王を食べるシーンをヘリコプターによる空撮で行ったが、その際に頂上付近で撮影クルーが登山者に撮影への協力を依頼し、登頂を待ってもらったとしている。登山者を排除する意図はなく、地元山岳ガイドの方からの情報も得てなるべく登山者の少ない時間帯を選んだものの、これにより予定変更を余儀なくされた登山者もいたという。
ラ王はこれまでの生タイプ麺(めん)だったが、日清は新技術による独自の製法で「次世代ノンフライ麺」を開発、関東甲信越・静岡で6日から発売している。新CMはこの新タイプのラ王を宣伝するものだった。
日清では現在、同じ男性タレントを起用し、別のCMを撮り直しているという。
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/100908/biz1009082141029-n1.htm
↓
09月08日:2ちゃんねるにスレが立つ
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/bizplus/1283945428/
↓
ツイッターやブログを通じて、不買運動へと発展
↓
10月06日:環境省の松本自然環境事務所は「非常に遺憾」の文書を3社に出す。
↓
10月19日:東京地裁による2チャンネルへの情報開示命令(以下引用)
2ちゃんねるに情報開示命令 日清CM撮影巡る書き込み
(2010年10月20日20時39分)
日清食品が環境省の自粛要請にもかかわらず、北アルプス・槍ケ岳でヘリコプターを使ったテレビCMを撮影した問題をめぐり、インターネットの掲示板「2ちゃんねる」の書き込み内容が、社員の人格権を侵害しているなどとして、CM製作会社の葵(あおい)プロモーションが2ちゃんねる管理人に対し、掲載内容の削除と発信者情報の開示を求める仮処分を申請していたことがわかった。東京地裁(渡辺哲裁判官)は19日、いずれの申請も認める仮処分決定をした。
代理人弁護士によると、2ちゃんねる側は決定通り、書き込みを削除。開示を求めたネット上の住所である「IPアドレス」も開示したという。弁護士は「会社と相談して今後の対応を決める」としている。
仮処分決定などによると、対象となったのは9月11、12両日に書き込まれた4件。問題が新聞などで報道された後だった。CM製作の経緯や、問題に対する社内の反応とする内容などが掲載された。
葵プロモーション広報IR部は「社員名など個人情報が出ており、守秘義務違反にあたるような情報もあり、法的な対応を取った」と話す。
日清食品は8月3日、槍ケ岳山頂でCM撮影。環境省は登山者に迷惑をかけ、国の特別天然記念物ライチョウなどに影響する懸念から自粛を要請していた。CMは放送中止になり、同省は3社を文書で指導した。
http://www.asahi.com/national/update/1020/TKY201010200396.html
日清食品のこの不祥事に対する対応は素早く適切で、高いリスクマネジメント能力の組織(企業体)であることが分かります。一方、葵プロモーションの担当弁護士は事後処理として、2チャンネルに対する削除仮処分を取ったり、公開削除スレッドで削除依頼をしたようですが、この行為は本件に話題性を付加する役割を果し、火に油を注ぐ結果となりました。事後処理行動は、訴訟して勝つことよりも、コンプライアンスに重点を置いた活動が優先されてしかるべきです。
この撮影は、当日に槍ヶ岳でタレントの照英を目撃した登山者がツイッターで発信を始めた時点で、知る人ぞ知る出来事となっていました。
ネットコミュニティの発達が組織(企業体)の不正を暴いた嚆矢(こうし)となった「東芝ビデオデッキ・クレーマー事件」(※注)当時よりもネット環境は進化しており、簡単にブログを作れ、ツッターで発信でき、中央省庁のサイトへメールで訴えることが容易にできる時代です。
すなわち、問題を隠すウソが続かない時代に、わたしたちは身を置いているのです。城大学教授・郷原信郎氏等は、「コンプライアンス=法令遵守ではなく、法令の遵守を含めた『社会的要請への適応』である」というフルセット・コンプライアンス論を提唱なさっていますが、まさに本件は「社会的要請への適応」の好例といえます。
適切な事後処理も大切ですが、問題の発生を事前に阻止・回避する予防法務・リスクマネジメントを日々の企業活動に反映させていただきたいと願っています。組織(企業体)が存続するための必要条件です。
感謝
※注)1999年、東芝のビデオテープレコーダを購入したユーザー“Akky”が購入直後に製品の点検・修理を依頼をした。ところが、その製品は勝手に改造されていた。さらに、購入した販売店と東芝系列のサービスマンや東芝本社の交渉相手が変わった。加えて、東芝の「渉外管理室」担当者の暴力団まがいの暴言と応対を受けた。この経緯や電話応答を秘密裏に録音し、その音声を『東芝のアフターサービスについて(修理を依頼し、東芝本社社員から暴言を浴びるまで)』と題する“Akky”自身のウェブサイトに、リアルオーディオ形式の配信で公開した。当時はダイアルアップの従量制でインターネット接続しているユーザーが多数派だったこともあり、ウェブサイトへのアクセス数はゆっくりと増えていった。しかしながら、東芝側が仮処分申請を出したのを機に、大手マスコミが取り上げ世間に伝えたために、アクセス数は急増した。結果、周知の不祥事となり社会的問題化し、東芝の企業イメージは毀損せられた。1999年秋に閉鎖されるまでの間に、アクセス数は1,000万を超えた。(以上)
電通、CM制作現場の点検態勢見直し 日清ラ王問題で(2010年11月11日8時0分)
山岳でのテレビCMの撮影時に、スタッフが登山者に迷惑をかけていた問題で、CMを請け負った電通の中本祥一・常務執行役員は10日の決算記者会見で「今後は制作会社とのコミュニケーションを欠かさないようにする」と述べ、再発防止に力を入れることを強調した。広告大手による制作会社への実質的な「丸投げ」慣行が、広告主などによるチェックが行き届かなかった要因とみる声もある。
問題となったのは、日清食品が電通に企画・立案を依頼した即席めん「日清ラ王」のCM。制作会社の「葵プロモーション」が撮影にあたった。8月の北アルプスでの撮影時には、環境省の現地事務所が事前にヘリコプターの使用自粛を要請していたにもかかわらず強行。スタッフに山頂への立ち入りを拒まれたとの登山者の苦情もあり、放送を中止していた。
葵の担当者は自粛要請を電通や日清に伝えておらず、広告主として最終的に責任を負うはずの日清は、登山者からの指摘で初めて問題に気づいたという。
電通の中本氏は、会社としてのチェックが行き届かなかったことを認めたうえで、今後は撮影条件の確認を強化するなど、再発防止に取り組む考えを示した。日清の中川晋社長は朝日新聞の取材に、「広告会社に任せきっていたことに欠点があった」。今後はCMの内容について、法令違反につながらないか自社で点検する。
CM制作を下請けにまわす手法は、ほかの広告会社も含め広く定着しており、「広告主の十分なチェックが入らないことも多い」(広告大手幹部)。制作会社が発注元の広告会社や広告主に遠慮して、否定的な情報を伝えないケースもあるという。(南日慶子)
http://www.asahi.com/national/update/1111/TKY201011110090.html
次は、環境省が両者を指導した旨の記事です。
ラ王CM強行撮影、環境省が日清・電通を指導
(2010年10月19日10時14分)
日清食品の北アルプス・槍ケ岳でのテレビCM撮影を巡り、環境省の自粛要請にもかかわらずヘリコプターを使用し登山者に迷惑をかけたとして、同省が異例の文書指導をしていたことがわかった。日清だけでなくCMを請け負った広告会社の電通や、製作会社の葵(あおい)プロモーションも文書指導しており、3社は関係者を厳重注意の処分にした。
日清は8月に槍ケ岳山頂で、ヘリを使って即席めん「日清ラ王」のCMを撮った。製作スタッフが撮影中の約30分間、少なくとも十数人の一般登山者の山頂への立ち入りを拒んでいた。
環境省の松本自然環境事務所(長野県松本市)は、登山者に迷惑をかけないことや、ヘリの自粛を事前に求めていたが、製作会社の担当者が撮影を強行していた。同事務所は9月の問題発覚後に3社に報告を求め、今月6日付で「非常に遺憾」とする文書を出した。
現地の国有林を管理する中信森林管理署(同)も9月に3社を指導し、謝罪文を提出させている。(多田敏男、南日慶子)
http://www.asahi.com/national/update/1019/TKY201010190095.html
さて、本件を時系列で追って見る事にしましょう。
08月03日:槍ヶ岳山頂で日清食品「ラ王」CMを撮影
(事前告知や連絡無しにヘリによる空撮を30分実施;居合わせた登山者は撮影を理由に登頂を妨げられ、頂上にいた人は下山させられた)
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08月26日:被害を受けた登山者が朝日新聞(大阪版の声欄)に投書
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09月09日:日清食品のホームページにお詫びの意志を掲載(以下引用)
【ニュースリリース】
2010年09月08日 <お知らせ>
弊社商品のCM撮影に関するお詫び
このたび弊社商品「日清ラ王」のCM撮影に関連し、多くの皆様に多大なご迷惑をお掛けいたしましたことをお詫び申し上げます。
弊社および広告代理店は、2010年8月3日に槍ヶ岳の頂上において、男性タレントが同商品を食べるシーンの撮影をおこないました。
撮影にあたっては、地元山岳ガイドの方からの情報も得て、なるべく登山者の少ない時間帯を選びました。
また、ヘリコプターによる空撮を約30分間行いましたが、その際には頂上付近で撮影クルーが登山者の皆様に撮影へのご協力をお願いし、一部の方々には登頂をお待ちいただくこととなりました。
ご協力のお願いは、一部で言われているような、登山者を排除しようとする意図はございませんでした。
しかしながら、お待ちいただいた登山者の皆様には、事前の説明不足から予定の変更等、大変なご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。また、多くの皆様には、ご心配をおかけするとともに不快な思いをさせてしまいましたことを重ねてお詫び申し上げます。
弊社では、コンプライアンス委員会において、当CMの放送自粛と新たな内容への変更を決定するとともに、今後の再発防止体制の強化に努めてまいります。
http://www.nissinfoods.co.jp/com/news/news_release.html?yr=2010&mn=9&nid=2020
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日清食品が当該CMのお蔵入りを決定
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09月08日:産経ニュースWEB版で報道(以下引用)
日清「ラ王」新CMお蔵入り 山頂で撮影、登山者一時入れず
(2010.9.8 21:36)
日清食品は8日、「弊社商品のCM撮影に関するお詫び」をホームページ上に掲載した。槍ヶ岳で行った「日清ラ王」の新CM撮影の際、一部の登山者に登頂を待ってもらうことを依頼し、「多くの皆様に多大なご迷惑をお掛けいたしました」と謝罪している。日清では9日から新CMの放映を予定していたが、「CMを見ると、不快に思う人もいる」(広報部)と判断、“お蔵入り”にすることを決めた。
ホームページによると、撮影が行われたのは8月3日。槍ヶ岳の頂上で男性タレントがラ王を食べるシーンをヘリコプターによる空撮で行ったが、その際に頂上付近で撮影クルーが登山者に撮影への協力を依頼し、登頂を待ってもらったとしている。登山者を排除する意図はなく、地元山岳ガイドの方からの情報も得てなるべく登山者の少ない時間帯を選んだものの、これにより予定変更を余儀なくされた登山者もいたという。
ラ王はこれまでの生タイプ麺(めん)だったが、日清は新技術による独自の製法で「次世代ノンフライ麺」を開発、関東甲信越・静岡で6日から発売している。新CMはこの新タイプのラ王を宣伝するものだった。
日清では現在、同じ男性タレントを起用し、別のCMを撮り直しているという。
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/100908/biz1009082141029-n1.htm
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09月08日:2ちゃんねるにスレが立つ
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/bizplus/1283945428/
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ツイッターやブログを通じて、不買運動へと発展
↓
10月06日:環境省の松本自然環境事務所は「非常に遺憾」の文書を3社に出す。
↓
10月19日:東京地裁による2チャンネルへの情報開示命令(以下引用)
2ちゃんねるに情報開示命令 日清CM撮影巡る書き込み
(2010年10月20日20時39分)
日清食品が環境省の自粛要請にもかかわらず、北アルプス・槍ケ岳でヘリコプターを使ったテレビCMを撮影した問題をめぐり、インターネットの掲示板「2ちゃんねる」の書き込み内容が、社員の人格権を侵害しているなどとして、CM製作会社の葵(あおい)プロモーションが2ちゃんねる管理人に対し、掲載内容の削除と発信者情報の開示を求める仮処分を申請していたことがわかった。東京地裁(渡辺哲裁判官)は19日、いずれの申請も認める仮処分決定をした。
代理人弁護士によると、2ちゃんねる側は決定通り、書き込みを削除。開示を求めたネット上の住所である「IPアドレス」も開示したという。弁護士は「会社と相談して今後の対応を決める」としている。
仮処分決定などによると、対象となったのは9月11、12両日に書き込まれた4件。問題が新聞などで報道された後だった。CM製作の経緯や、問題に対する社内の反応とする内容などが掲載された。
葵プロモーション広報IR部は「社員名など個人情報が出ており、守秘義務違反にあたるような情報もあり、法的な対応を取った」と話す。
日清食品は8月3日、槍ケ岳山頂でCM撮影。環境省は登山者に迷惑をかけ、国の特別天然記念物ライチョウなどに影響する懸念から自粛を要請していた。CMは放送中止になり、同省は3社を文書で指導した。
http://www.asahi.com/national/update/1020/TKY201010200396.html
日清食品のこの不祥事に対する対応は素早く適切で、高いリスクマネジメント能力の組織(企業体)であることが分かります。一方、葵プロモーションの担当弁護士は事後処理として、2チャンネルに対する削除仮処分を取ったり、公開削除スレッドで削除依頼をしたようですが、この行為は本件に話題性を付加する役割を果し、火に油を注ぐ結果となりました。事後処理行動は、訴訟して勝つことよりも、コンプライアンスに重点を置いた活動が優先されてしかるべきです。
この撮影は、当日に槍ヶ岳でタレントの照英を目撃した登山者がツイッターで発信を始めた時点で、知る人ぞ知る出来事となっていました。
ネットコミュニティの発達が組織(企業体)の不正を暴いた嚆矢(こうし)となった「東芝ビデオデッキ・クレーマー事件」(※注)当時よりもネット環境は進化しており、簡単にブログを作れ、ツッターで発信でき、中央省庁のサイトへメールで訴えることが容易にできる時代です。
すなわち、問題を隠すウソが続かない時代に、わたしたちは身を置いているのです。城大学教授・郷原信郎氏等は、「コンプライアンス=法令遵守ではなく、法令の遵守を含めた『社会的要請への適応』である」というフルセット・コンプライアンス論を提唱なさっていますが、まさに本件は「社会的要請への適応」の好例といえます。
適切な事後処理も大切ですが、問題の発生を事前に阻止・回避する予防法務・リスクマネジメントを日々の企業活動に反映させていただきたいと願っています。組織(企業体)が存続するための必要条件です。
感謝
※注)1999年、東芝のビデオテープレコーダを購入したユーザー“Akky”が購入直後に製品の点検・修理を依頼をした。ところが、その製品は勝手に改造されていた。さらに、購入した販売店と東芝系列のサービスマンや東芝本社の交渉相手が変わった。加えて、東芝の「渉外管理室」担当者の暴力団まがいの暴言と応対を受けた。この経緯や電話応答を秘密裏に録音し、その音声を『東芝のアフターサービスについて(修理を依頼し、東芝本社社員から暴言を浴びるまで)』と題する“Akky”自身のウェブサイトに、リアルオーディオ形式の配信で公開した。当時はダイアルアップの従量制でインターネット接続しているユーザーが多数派だったこともあり、ウェブサイトへのアクセス数はゆっくりと増えていった。しかしながら、東芝側が仮処分申請を出したのを機に、大手マスコミが取り上げ世間に伝えたために、アクセス数は急増した。結果、周知の不祥事となり社会的問題化し、東芝の企業イメージは毀損せられた。1999年秋に閉鎖されるまでの間に、アクセス数は1,000万を超えた。(以上)
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