日本の金融商品取引法(金取法)には、合衆国のInjunction(事前指止め)に相当する法制度が整っています。これは証券関連の組織行動により被害者が生まれ公益を損なうことを事前に回避するためのものです。当初の手続きでは、裁判所への申立て権限は金融庁長官のみにありました。しかしながら、発動されたことはありませんでした。ところが最近、立て続けに2件の発動がありました。これは、平成18年の金取法改正により手続きが改められ、この権限が証券取引等監視委員会にも与えられことによるものです。
……
(裁判所の禁止又は停止命令)
第百九十二条 裁判所は、緊急の必要があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣及び財務大臣の申立てにより、この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる。
2 裁判所は、前項の規定により発した命令を取り消し、又は変更することができる。
3 前二項の事件は、被申立人の住所地の地方裁判所の管轄とする。
4 第一項及び第二項の裁判については、非訟事件手続法 (明治三十一年法律第十四号)の定めるところによる。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO025.html
……
それでは、直近のものから。ひとつは、㈱生物化学研究所が、無届で有価証券の募集をしているという業規制に反する行為に対するものです。この行為により、錯誤による購入者(投資者)が生まれる前に対処したものです。
平成22年12月16日 証券取引等監視委員会
株式会社生物化学研究所に対する金融商品取引法違反行為に係る裁判所の緊急差止命令(同法第192条第1項)の発令について
証券取引等監視委員会が、平成22年11月26日に行った株式会社生物化学研究所(山梨県中央市、代表取締役社長 堀内 勲、資本金5,842万5,000円。以下「被申立人」という。)に対する金融商品取引法違反行為(無届けで、有価証券の募集を行うこと等)の緊急差止命令の申立てについて、同年12月15日、甲府地方裁判所より、申立ての内容どおり、被申立人に対し、下記の命令が下された。
記
1 被申立人は、金融商品取引法4条1項本文の規定の適用を受ける株券若しくは新株予約権証券又はこれらに表示されるべき権利であって株券若しくは新株予約権証券が発行されていない場合における当該権利について、同項本文の届出をするまでは、同法2条3項に規定する有価証券の募集を行ってはならない。
2 被申立人は、金融商品取引法4条1項本文の規定の適用を受ける株券若しくは新株予約権証券又はこれらに表示されるべき権利であって株券若しくは新株予約権証券が発行されていない場合における当該権利について、同項本文の届出がその効力を生じるまでは、これを同法2条3項に規定する有価証券の募集により取得させてはならない。http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2010/2010/20101216-1.htm
平成22年11月26日 証券取引等監視委員会
株式会社生物化学研究所の金融商品取引法違反行為に係る裁判所への緊急差止命令の申立て(同法第192条第1項)について
1.概要
証券取引等監視委員会は、本日、金融商品取引法第192条第1項の規定に基づき、甲府地方裁判所に対し、株式会社生物化学研究所(山梨県中央市、代表取締役社長 堀内 勲、資本金5,842万5,000円)を被申立人とする金融商品取引法違反行為(無届けで、有価証券の募集を行うこと等)の禁止等を命ずるよう申立てを行った。
2.申立ての内容
被申立人は、平成22年2月ころから同年6月ころまでの間、7回にわたって自社の株式及び新株予約権(以下「株式等」という。)の発行を行い、金融商品取引業の登録等がない株式会社大経と連携して株式等の取得の勧誘を行った結果、約100名の投資家に株式等を取得させていた(株式の払込金額約1億円、新株予約権の行使に際して払い込むべき金額約2億2,000万円)。また、被申立人は、平成22年11月末発行予定の株式について投資家に対する取得の勧誘を行っていた。
被申立人は、上記各発行のいずれについても有価証券届出書を提出していない。しかしながら、上記7回のうち6回の発行に係る株式等及び同年11月末発行予定の株式に関する取得の勧誘は、いずれも、有価証券の募集に該当し、かつ、金融商品取引法第4条第1項本文の規定の適用を受けることから、有価証券届出書を提出しなければ行ってはならないものである。
このような被申立人の行為は、金融商品取引法第4条第1項本文等に違反するものであり、また、被申立人は、当該違反行為を今後も行う蓋然性が高い。
したがって、上記のような被申立人の金融商品取引法違反行為の禁止・停止を命じる旨の裁判を求める。http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2010/2010/20101126-2.htm
もうひとつは、㈱大経が金融商品取引業の登録を受けていないにもかかわらず、未公開株の取得の勧誘を繰り返しているという金取法違反(29条違反)に該当する行為に対する予防措置で、未然に投資者(購入者)が生まれることを阻止しようとしたものです。
平成22年11月18日 証券取引等監視委員会
株式会社大経及びその役員に対する金融商品取引法第192条第1項に基づく裁判所への申立てについて
1.申立ての内容等
証券取引等監視委員会が、株式会社大経(東京都中央区、代表取締役社長 小林正義、資本金1,000万円、役職員6名、金融商品取引業の登録等はない。以下「当社」という。)に対して金融商品取引法第187条に基づく調査を行った結果、下記2.の事実が認められたことから、平成22年11月17日、金融商品取引法第192条第1項の規定に基づき、東京地方裁判所に対し、当社並びに当社の代表取締役小林正義及び取締役大澤彰を相手方として金融商品取引法違反行為(無登録で、株式等の売買、売買の媒介若しくは代理又は募集若しくは私募の取扱いを業として行うこと)の禁止等を命ずるよう申立てを行った。
2.事実関係
当社は、金融商品取引業の登録を受けずに、平成22年2月ころから6月ころまでの間、業として、株式会社生物化学研究所(山梨県中央市。以下「生物化学」という。)が新規に発行する株式及び新株予約権の取得の勧誘を行い、その結果、約100名の投資家が生物化学の株式等を1億円弱で取得していたほか、同年11月末に予定されている生物化学の新株発行に向けて投資家に対する取得の勧誘を行っていたものである。また、当社は上記株式等のほかにも、平成15年7月の設立以来、株式会社応微研、株式会社ビーシーエス、株式会社ディー・ジー・コミュニケーションズ及び株式会社イー・マーケティングの株式につき、投資家に対する取得の勧誘を繰り返し行っていたものである。
このような当社の行為は、金融商品取引法第29条に違反するものであり、また、当社並びにその役員である小林正義及び大澤彰は、当該違反行為を今後も行う蓋然性が高いものと認められる。http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2010/2010/20101118-1.htm
このような申立てを可能にするには、事前の情報収集が必要となります。金取法187条に基づく調査の存在が上記リリースから分かります。
…………
(審問等に関する調査のための処分)
第百八十七条 内閣総理大臣又は内閣総理大臣及び財務大臣は、この法律の規定による審問、この法律の規定による処分に係る聴聞又は第百九十二条の規定による申立てについて、必要な調査をするため、当該職員に、次に掲げる処分をさせることができる。
一 関係人若しくは参考人に出頭を命じて意見を聴取し、又はこれらの者から意見書若しくは報告書を提出させること。
二 鑑定人に出頭を命じて鑑定させること。
三 関係人に対し帳簿書類その他の物件の提出を命じ、又は提出物件を留めて置くこと。
四 関係人の業務若しくは財産の状況又は帳簿書類その他の物件を検査すること。
…………
このように証券取引等監視委員会の新しい実務の成果が顕れました。今後もリスクの事前回避と公益をもたらす実務が蓄積されていくに違いありません。
国際的な金融市場の整備の中、事後処理型から予防措置型へと投資商品(金融商品)への規制化の潮流が観られます。今回の日本の2ケースは、国内外の投資商品提供者への日本国からの強いメッセージとなるものです。
みなさまの平成22年はいかがでしたか。
みなさまの平成23年が喜び多き年となりますことを心から願っています。
感謝
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(裁判所の禁止又は停止命令)
第百九十二条 裁判所は、緊急の必要があり、かつ、公益及び投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣及び財務大臣の申立てにより、この法律又はこの法律に基づく命令に違反する行為を行い、又は行おうとする者に対し、その行為の禁止又は停止を命ずることができる。
2 裁判所は、前項の規定により発した命令を取り消し、又は変更することができる。
3 前二項の事件は、被申立人の住所地の地方裁判所の管轄とする。
4 第一項及び第二項の裁判については、非訟事件手続法 (明治三十一年法律第十四号)の定めるところによる。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO025.html
……
それでは、直近のものから。ひとつは、㈱生物化学研究所が、無届で有価証券の募集をしているという業規制に反する行為に対するものです。この行為により、錯誤による購入者(投資者)が生まれる前に対処したものです。
平成22年12月16日 証券取引等監視委員会
株式会社生物化学研究所に対する金融商品取引法違反行為に係る裁判所の緊急差止命令(同法第192条第1項)の発令について
証券取引等監視委員会が、平成22年11月26日に行った株式会社生物化学研究所(山梨県中央市、代表取締役社長 堀内 勲、資本金5,842万5,000円。以下「被申立人」という。)に対する金融商品取引法違反行為(無届けで、有価証券の募集を行うこと等)の緊急差止命令の申立てについて、同年12月15日、甲府地方裁判所より、申立ての内容どおり、被申立人に対し、下記の命令が下された。
記
1 被申立人は、金融商品取引法4条1項本文の規定の適用を受ける株券若しくは新株予約権証券又はこれらに表示されるべき権利であって株券若しくは新株予約権証券が発行されていない場合における当該権利について、同項本文の届出をするまでは、同法2条3項に規定する有価証券の募集を行ってはならない。
2 被申立人は、金融商品取引法4条1項本文の規定の適用を受ける株券若しくは新株予約権証券又はこれらに表示されるべき権利であって株券若しくは新株予約権証券が発行されていない場合における当該権利について、同項本文の届出がその効力を生じるまでは、これを同法2条3項に規定する有価証券の募集により取得させてはならない。http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2010/2010/20101216-1.htm
平成22年11月26日 証券取引等監視委員会
株式会社生物化学研究所の金融商品取引法違反行為に係る裁判所への緊急差止命令の申立て(同法第192条第1項)について
1.概要
証券取引等監視委員会は、本日、金融商品取引法第192条第1項の規定に基づき、甲府地方裁判所に対し、株式会社生物化学研究所(山梨県中央市、代表取締役社長 堀内 勲、資本金5,842万5,000円)を被申立人とする金融商品取引法違反行為(無届けで、有価証券の募集を行うこと等)の禁止等を命ずるよう申立てを行った。
2.申立ての内容
被申立人は、平成22年2月ころから同年6月ころまでの間、7回にわたって自社の株式及び新株予約権(以下「株式等」という。)の発行を行い、金融商品取引業の登録等がない株式会社大経と連携して株式等の取得の勧誘を行った結果、約100名の投資家に株式等を取得させていた(株式の払込金額約1億円、新株予約権の行使に際して払い込むべき金額約2億2,000万円)。また、被申立人は、平成22年11月末発行予定の株式について投資家に対する取得の勧誘を行っていた。
被申立人は、上記各発行のいずれについても有価証券届出書を提出していない。しかしながら、上記7回のうち6回の発行に係る株式等及び同年11月末発行予定の株式に関する取得の勧誘は、いずれも、有価証券の募集に該当し、かつ、金融商品取引法第4条第1項本文の規定の適用を受けることから、有価証券届出書を提出しなければ行ってはならないものである。
このような被申立人の行為は、金融商品取引法第4条第1項本文等に違反するものであり、また、被申立人は、当該違反行為を今後も行う蓋然性が高い。
したがって、上記のような被申立人の金融商品取引法違反行為の禁止・停止を命じる旨の裁判を求める。http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2010/2010/20101126-2.htm
もうひとつは、㈱大経が金融商品取引業の登録を受けていないにもかかわらず、未公開株の取得の勧誘を繰り返しているという金取法違反(29条違反)に該当する行為に対する予防措置で、未然に投資者(購入者)が生まれることを阻止しようとしたものです。
平成22年11月18日 証券取引等監視委員会
株式会社大経及びその役員に対する金融商品取引法第192条第1項に基づく裁判所への申立てについて
1.申立ての内容等
証券取引等監視委員会が、株式会社大経(東京都中央区、代表取締役社長 小林正義、資本金1,000万円、役職員6名、金融商品取引業の登録等はない。以下「当社」という。)に対して金融商品取引法第187条に基づく調査を行った結果、下記2.の事実が認められたことから、平成22年11月17日、金融商品取引法第192条第1項の規定に基づき、東京地方裁判所に対し、当社並びに当社の代表取締役小林正義及び取締役大澤彰を相手方として金融商品取引法違反行為(無登録で、株式等の売買、売買の媒介若しくは代理又は募集若しくは私募の取扱いを業として行うこと)の禁止等を命ずるよう申立てを行った。
2.事実関係
当社は、金融商品取引業の登録を受けずに、平成22年2月ころから6月ころまでの間、業として、株式会社生物化学研究所(山梨県中央市。以下「生物化学」という。)が新規に発行する株式及び新株予約権の取得の勧誘を行い、その結果、約100名の投資家が生物化学の株式等を1億円弱で取得していたほか、同年11月末に予定されている生物化学の新株発行に向けて投資家に対する取得の勧誘を行っていたものである。また、当社は上記株式等のほかにも、平成15年7月の設立以来、株式会社応微研、株式会社ビーシーエス、株式会社ディー・ジー・コミュニケーションズ及び株式会社イー・マーケティングの株式につき、投資家に対する取得の勧誘を繰り返し行っていたものである。
このような当社の行為は、金融商品取引法第29条に違反するものであり、また、当社並びにその役員である小林正義及び大澤彰は、当該違反行為を今後も行う蓋然性が高いものと認められる。http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2010/2010/20101118-1.htm
このような申立てを可能にするには、事前の情報収集が必要となります。金取法187条に基づく調査の存在が上記リリースから分かります。
…………
(審問等に関する調査のための処分)
第百八十七条 内閣総理大臣又は内閣総理大臣及び財務大臣は、この法律の規定による審問、この法律の規定による処分に係る聴聞又は第百九十二条の規定による申立てについて、必要な調査をするため、当該職員に、次に掲げる処分をさせることができる。
一 関係人若しくは参考人に出頭を命じて意見を聴取し、又はこれらの者から意見書若しくは報告書を提出させること。
二 鑑定人に出頭を命じて鑑定させること。
三 関係人に対し帳簿書類その他の物件の提出を命じ、又は提出物件を留めて置くこと。
四 関係人の業務若しくは財産の状況又は帳簿書類その他の物件を検査すること。
…………
このように証券取引等監視委員会の新しい実務の成果が顕れました。今後もリスクの事前回避と公益をもたらす実務が蓄積されていくに違いありません。
国際的な金融市場の整備の中、事後処理型から予防措置型へと投資商品(金融商品)への規制化の潮流が観られます。今回の日本の2ケースは、国内外の投資商品提供者への日本国からの強いメッセージとなるものです。
みなさまの平成22年はいかがでしたか。
みなさまの平成23年が喜び多き年となりますことを心から願っています。
感謝
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