私たち個々人が平和学の理論(セオリー)学んで、論理的(ロジカル)に実践し、平和を実現(問題解決)に貢献できる時代になりました。2000年に創設された世界初のオンラインで平和学が学べるトランセンド平和大学(TRANSCEND International)は、行動・教育/トレーニング・普及と研究により、より平和な世界を築こうとするものです。このネットワーク(大学)の創設者ガルトゥング博士のインタビュー記事(ダイヤモンドオンライン)を転載します。個人の内なるものから国際間のものまで、さまざまな紛争や葛藤をに直面した時、それらを悪事として抑えつけるのではなく、それらを正確に捉え、禍根を残すような安易な妥協をせず、共感・非暴力・創造性を活かし、超越点(Transcend Method)を見つけ出す知恵が私たちに備わっているはずです。

「平和学の父」に聞く、安保法制と北東アジアの未来
ダイヤモンドオンライン 2015年09月30日掲載 2015年9月30日(水)配信

安倍首相が積極的平和主義を唱えるよりもはるか以前に「積極的平和」を提唱したのが、ガルトゥング博士だ。氏は平和学の第一人者で、世界的に「平和学の父」として知られる。氏は安保法制が憲法違反であると厳しく批判する一方、アジアの平和構築に向けて、北東アジア共同体の設立を提案する。(聞き手/週刊ダイヤモンド論説委員 原 英次郎)

――最初に読者の理解を助けるために、先生の平和学のエッセンスを簡単にまとめてください。

 非常に簡単です。平和学は医学ではなくて健康学に似ていると思います。健康とはどういうものか、何が健康の害になるか、何が健康状態を良くするか。それと同じことが平和にも言えるのです。
 平和を二つに分けて考えます。「消極的平和」と「積極的平和」です。消極的というのはいかにして暴力状況あるいは暴力の発生を避けるかということ。積極的平和はいかにしてみんなが協力できるか、しかもそれが調和の取れた関係で、国の場合であれば、いろいろな国とどのように協力してやったらより効果が高いか、それをいかにして進めるかということです。
 一つだけ付け加えると、理論とともにプラクティス、実践が大事だということです。健康であるには理論だけでは意味がなく、実践がなければだめです。私は今までに160冊以上の専門書を出していますが、それとともに200以上の実践的なメディエーション(紛争解決)の仕事をしています。

■世界で最も好戦的な国家と共同歩調をとろうとしている
――今年は戦後70年に当たります。その節目の年に安倍晋三政権は憲法の解釈を変えて、新しい安全保障法制を成立させましたが、どう評価しておられますか。

 憲法解釈の問題ではないと思います。つまり彼は憲法の解釈を変えているのではなくてそれを侵害している。ことに憲法9条第1項は、国際間の紛争を解決するために武力を行使しないと謳っている。
 そうはっきりと憲法に謳われているにもかかわらず、いわゆる集団的自衛権という旗を掲げて、世界で最も好戦的な国・米国と共同行動を取ろうとしています。それはまさに戦争を国際間の紛争の解決策として使うということを、宣言していることになります。
 米国は世界中で多くのコンフリクトを抱えていますが、どの問題も平和的な解決策があるにもかかわらず、武力で解決しようとする傾向があります。米国は問題解決には関心がなく、むしろ武力行動に移りたい。なぜかというと、武力で対峙した場合は勝利が可能だからです。勝利の甘い蜜を吸いたい。それが多くの米国民の要望でもあるのです。

――しかし、安倍政権は安全保障法制を整備し、米国との同盟関係を強化することで、抑止力が増して、日本の安全が守れると説明しています。

 北東アジアの安全保障環境について、日本がそれをどう感じているかはよく理解できます。心配しているし、ドキドキしているし、非常にナーバスになっている。北朝鮮と中国、特に中国はますます強くなっている。それで遠くない将来に、日本を攻撃してくるかもしれないという懸念は分かります。
 ただ、私は平壌や北京の外交当局、政府当局の人たちと、直接、何度も話したことがある。実は彼らも日本側が心配していることと同様のことを言うのです、「日本が心配だ」と。その点では、お互いのパーセプション(認識)は似ているわけですね。
 だから、日本が集団的自衛権を容認し、米国との同盟関係を強化すれば、もっと危険な状態になると思います。結果、軍拡競争が起こるでしょう。軍拡競争そのものが、戦争に導く要因を内在させています。

■尖閣諸島を共同で管理し利益はお互いで分け合う
――しかし、例えば尖閣諸島の日本の領海には、中国の公船が頻繁に侵入するようになり、軍事的圧力を強めていると感じられます。

 小競り合いなども含めて戦争や暴力状況が発生するのは、その背後に解決できていない何らかのコンフリクトが、必ずそこに存在します。
 例えば尖閣諸島問題です。中国では釣魚島と言うんだそうですね。尖閣諸島は必ずしも日中間の問題だけではなく、台湾も所有権を主張している。ですから私は一つの解決策を提案しています。これは相当前から言っていることですが、尖閣諸島を共同管理=共有の領土にする。そして漁業や石油などそこから上がってくる利益は、すべてお互いに分かち合う。私は中国の南京大学でもこの話をしました。
 そこに来ておられる多くの先生方も、いわゆる領土というものは、地球上のどこか一国に属すると思っているわけで、二ヵ国以上で共に領土を分かち合うということは考えられないと、びっくりされた。しかし、大変な拍手をしてくださいました。南京大学は私を呼んで、そんな話させてくれましたが、東京大学からはお声がかかりませんね(笑)。

――そのような共同統治の実例はあるのでしょうか。

 あなたは英国人のような質問をしますね(笑)。実は英国の人は想像力ではなくて、過去にそういうものがあったか、なかったか実証主義なのですよ。ところがそれに捉われず、もっとニュートラルな考え方をすれば、過去に実証的な例がなくても、実際にはもっと良い考え方があるということを主張したいのです。
 それで答えですが、二つケースがあります。一つはタイとマレーシアで、領海の問題です。もう一つが、ノルウェーとロシアで、これも領海の問題です。

■過去の悪いことにばかり掘り下げるのは非生産的
――8月14日に発表された安倍首相のいわゆる戦後70年談話については、どう評価していますか。

 日本は南北朝鮮や中国との関係で、あまりにも謝罪に重点を置き過ぎてしまったから、問題の見方も解決の仕方も、非常に歪んだものになってしまっている。だから、そういう点では、私は安倍さんにはまったく同意します。謝罪を永久に続けるなんてできるはずがないし、するべきではないと、私もそう思います。
 ことに欧米の新聞は安倍首相の戦後70年談話に対して、表面的でちっとも謝罪をしていないというような批判をしますが、私から見れば安倍さんは、十分に談話の中でも謝罪をしていると思います。メディアは謝罪をしているとか、いないということに目を向けさせることによって、安倍さんが触れていないもっと大事な問題、例えばTPP(環太平洋経済連携協定)とか憲法9条の問題から、目を逸らさせるような役割をしている。
日中韓における歴史の対立点については、謝罪よりもむしろ国際調査のグループをつくって実際の調査をさせる。例えば、慰安婦問題、南京問題、あるいは強制労働の問題などがあります。
 南京問題で言えば、当時の中国では蒋介石の国民党と毛沢東の共産党との間で、非常に激しい戦いがあり、南京城の中でも戦っていたわけです。中国側は南京で死んだ人の数は30万人とか、40万人という数字をあげ、あたかも日本軍が市民も含めて、それだけの人を殺したかのように言っていますが、実は中国の民兵もたくさんいて、中国人同士もお互いが殺し合っていたのに、その犠牲者の数は表に出てきていません。
 しかし、ある意味こういう問題にこだわるより、将来もっと良い関係を作るという大事な問題があるのに、過去の悪いことにばかり掘り下げるのは、本当に非生産的でしかも逆効果です。

――歴史問題や歴史認識の対立は、どう乗り越えていけばいいとお考えですか。

 ヨーロッパから実例を学べばいいと思います。それは横に置いておきましょう、と。日本で言う棚上げです。例えば英仏だけ考えても、13世紀から14世紀にかけて110年以上に渡る戦争をしてきまた。だから過去の苦々しい経験――最近で言えば、ユネスコの世界遺産登録を巡る日本と韓国の問題ですが、あんなことを言い出したらキリがない。
 そうではなくて、日中韓の関係では良かった点もいっぱいある。その良かったことをむしろ想起し、悪いことは棚上げしましょう、と。
 日本に当てはめて考えると、仏教はそもそもどこから渡来したのか。地理的に言えば、インドから中国を通り朝鮮半島を通って日本に来たわけです。では、儒教はどうか。日中韓にはそういう、共通に持っている文化があります。仏教であれ、儒教であれ中国、朝鮮、日本は共通の文化に根ざしている。
朝鮮半島に対して、日本が大きな貢献ができる一つのやり方は、北朝鮮と平和条約を結ぶことです。そうしたら北朝鮮の状況を、大きく転換させることができるでしょう。米国は北朝鮮と平和条約を結ぶ、あるいは外交関係を復活させることを拒否している。だから、日本は米国に気兼ねして動けないわけで、北朝鮮に気兼ねをしているわけではありません。

■北東アジア共同体を構築しその本部を沖縄に置く
――では、安定した東アジアを日本独自の力で作るということを考えた時、中国や韓国との対立を、どのようにして乗り越えていけばいいとお考えですか。

 それには非常に良いモデルがあります。それはEEC(欧州経済共同体)です。歴史をよく振り返ってみれば、東アジアよりもヨーロッパの方がよほど酷い戦争を繰り返してしてきましたが、第2次世界大戦後、フランスの立派な政治家がこう言いました。「ナチスドイツは本当に酷かったと。酷いからこそドイツはヨーロッパの家族の一員に戻るべきだ」と。ヨーロッパの家族が、1958年1月に生まれたEECで今のEU(欧州連合)の基になるものです。フランス、ドイツなど6ヵ国でスタートしました。
 私たちの国際NGO「トランセンド」では、メディエーションの活動もしていますが、私たちが提案しているのは、北東アジアのコミュニティを作るということです。まず58年にできたEECをモデルにする。例えば、このコミュニティも6ヵ国くらいからスタートできる。中国、台湾をそれぞれ一つとして二つのチャイナ、それから朝鮮半島も南北の2つのコリアになるわけです。それからロシア全土ではなくて、極東のロシアと日本です。
 こういう東アジアあるいは北東アジアの共同体ができた場合には、ECのブリュッセルのような本部が必要です。私の提案では沖縄をその本部にする。歴史的にはかつて琉球王国であり、そこは戦争とはかけ離れた平和な王国でした。そして日本的要素も、中国的要素もあり、国際的でもある。だから理想的な立地条件を兼ね備えています。
 もちろん今すぐは不可能です。いま日本は米国の方にばかり目が向いているから。でも近い将来、2020年ごろには、こういうことが考えられると思います。集団的自衛権の行使ということで、米国から間もなくお声がかかってきて、対イスラム国家と対決するような行動を展開することになる。1、2年も経たないうちに日本は彼らのターゲットになる。そのときに大変な間違いを犯したということを気がつく。それで新しい別の道がないかという声が大きくなってきて、東アジア共同体や北東アジア共同体などが考えられる。まさにそれが積極的平和主義の実践になるわけです。

――安倍首相も「積極的平和主義」という言葉を使い、世界の平和に貢献すると言っています。先生の、積極的平和とは、どのように違いますか。

 私から見ればまったく違うと思います。例えばEECがポジティブピース(積極的平和)の一例です。つまり協力関係、この場合は国家間の協力、調和ですね。ヨーロッパの国家それぞれではなく、ヨーロッパ全体で成長していく。もちろん、いまEUはギリシャなど多くの問題を抱えていますが、それはアフリカ始め他の地域でも、積極的平和の良いお手本になっているわけで、軍事的なものでは決してない。
 ところが、安倍政権が掲げる積極的平和は、日本とアメリカの関係において片務的ではない関係を実現したいと考えて、言っておられるんじゃないかという気がします。片務的でないバランスの取れた関係を、積極的平和構築のために使うのであればいいのですが、共に戦争をやろうというところに問題がある。私が言う積極的平和では、平和に向かって共同作業をしようという平和であるのに、戦争に向かって協力関係を築こうというのは大きな問題です。私たちとしては核の傘というようなものではなく、平和の傘を広げようと言っているわけです。
平和学者ヨハン・ガルトゥング博士
ヨハン・ガルトゥング博士(Johan Galtung)1930年ノルウェー生まれ。平和学の第一人者で世界的に「平和学の父」として知られる。1959年に世界初の平和研究の専門機関、オスロ国際平和研究所(PRIO)を創設。1964年には影響力のある専門誌、『平和研究ジャーナル(Journal of Peace Research)』を創刊。その他多くの平和研究機関設立に貢献している。平和学の教授として米コロンビア大学、立命館大学など世界中で数千人の学生を指導。1957年からこれまでに200以上の国家間、宗教間紛争を調停した経験を持つ。1987年にもう一つのノーベル賞と言われる「ライト・ライブリフッド賞」を受賞。2000年には世界初のオンラインで平和学が学べる大学、トランセンド平和大学を創設した。Photo by Toshiaki Usami
http://diamond.jp/articles/-/79174より転載

参考:トランセンド研究

寒さが増してきました、くれぐれもご自愛ください。   感謝