技術開発には夢があります。「空飛ぶタクシー」の開発にはワクワクしますね。ドイツには2015年創業のLilium Aviation(リリウム・アビエーション)」があります。日経ビジネスの蛯谷敏氏のマティアス・マイナー氏へのインタヴューを通じて、空の新たな交通事業構想と未来志向の精神を楽しんでみましょう。
「空飛ぶタクシー」を呼べる日は近づいている
独リリウム・アビエーション共同創業者に聞く
(日経ビジネス 蛯谷敏 2017年5月10日(水))

 欧米で今、「新しい空のモビリティ」開発が活況を呈している。米国では4月25日に、配車サービス世界大手のウーバー・テクノロジーズが「空飛ぶタクシー」の開発計画を発表。同時期には米グーグル創業者のラリー・ペイジ氏が出資するスタートアップの米キティホークも、開発中の小型飛行機の動画をネットで公開した。
 欧州では、4月にスロバキアのスタートアップ、エアロモービルが2020年にも市販する空飛ぶクルマの先行予約を始めた。航空大手の欧州エアバスも2017年内に、空飛ぶ自動運転車の試験飛行を開始することを明らかにしている。
 スロバキアのエアロモービルを除けば、大半の企業は機体の開発を通じて「飛行機版ライドシェア」の実現を目指している。従来の飛行機やヘリコプターよりも廉価で便利な空のモビリティ構築が最終目標だ。
 各地で開発競争が熱を帯びる中、ドイツでも新たなスタートアップが注目を集めている。2015年にミュンヘン工科大学出身のエンジニアら4人が創業した「Lilium Aviation(リリウム・アビエーション)」だ。独特の形状とデザインを持つ5人乗りの電動小型飛行機を開発中で、今年4月には最初の飛行実験に成功した。
 「空飛ぶタクシーはもはやクレージーなアイデアではない」と語る同社の共同創業者、マティアス・マイナー氏に事業の構想と進捗を聞いた。(聞き手は蛯谷 敏)

空のモビリティをより身近に
――「空飛ぶタクシー」のという壮大なプロジェクトは、どのようなきっかけで始まったのですか?
空飛ぶタクシー@マティアス・マイナー
マティアス・マイナー(Matthias Meiner)氏。1987年生まれ。ミュンヘン工科大学の博士課程でロボット工学を研究していた2015年に、現CEOのダニエル・ウィーガンド氏に誘われ、リリウム・アビエーションの創業に参画する。同社では、航空機制御全般の技術統括を務める。

マイナー:すべては、当社のCEO(最高経営責任者)を務めるダニエル・ウィーガンドの情熱とアイデアから始まりました。
 もともと飛行機好きだったダニエルは、14歳の頃からグライダーのパイロットを始めるなど、若い時から「空」に対する並々ならぬ興味を持っていました。大学では、移動システムを研究していて、その時から空路を使った全く新しいモビリティの構想を温めていました。
 鉄道、飛行機、船舶などを見ても明らかなように、現在の交通システムの多くは多額の投資と技術を要する“重厚長大型”のインフラです。ダニエルは、それとは逆の発想で新しい交通システムを構築できないかと考えました。

――それが、小型飛行機を使ったライドシェアサービスだと。
マイナー:既存の技術をうまく組み合わせ、無駄のないシンプルな空の交通システムを構築することが、ダニエルのアイデアでした。
 一般に、私達が使う空路の移動手段は主に飛行機やヘリコプターですが、タクシーのように気軽には使えません。このギャップを埋め、空路を使うモビリティをより身近にしたい、というのがリリウムという企業が目指す最終目標です。
空飛ぶタクシー@リリウム
リリウムが開発中の小型飛行機。離着陸と飛行には36個のモーターを使う
――開発中の小型飛行機は、独特のデザインをしています。
マイナー:我々の目指すコンセプトに理想的な機体は何かを考え抜いた結果、誕生したデザインです。
 まず、タクシーのように飛行機を利用するためには、どこでも離着陸できる必要があります。いちいち滑走路が必要になっては、利便性が落ちますからね。ですから、機体は垂直の離着陸(VTOL:vertical takeoff and landing)が可能な設計にする必要がありました。

エンジンの代わりに36個のモーター
 VTOLの機体開発は現状、ヘリコプターのように、エンジンでプロペラを動かして浮揚する方法が一般的ですが、我々はその代わりに独自の機構を導入しました。36個の小型モーターを採用するもので、我々は電子エンジンと呼んでいます。
 それぞれモーターにはファンがついていて、離着陸の際には高速回転したファンが全て下向きになり、浮揚する力を得ます。飛行の際には、電子エンジンは水平方向に向き、飛行の動力源となる仕組みです。英国が1960年代に開発した戦闘機のハリアーのようなイメージですね。
 我々の開発した電子エンジンの利点の一つは安全性の向上です。電子エンジンは機体のダクト内に収まっているので、ファンが直接何かに触れることはありません。 大きなプロペラを使った機構に比べて、鳥を巻き込んで機体が損傷するリスクは減らせます。36個のモーターの一部が壊れても、残りのモーターで、飛行が継続できるように設計されています。
 もう一つの特徴は、機体のエネルギーはすべて電気で動くという点です。将来的にはタクシーのように気軽に利用できる交通システムを考えれば、機体は無数に配置しなければなりません。環境への負荷を考慮すると、電動化は必須の条件でした。重量のかさむバッテリーを搭載する必要があるというデメリットがありましたが、尾翼をなくすなど、全体のデザインを見直し極力軽量化することで、それを補っています。
 こうした結果、現在の機体がデザインされました。想定速度は、時速300キロ程度。設計通りの速度が出れば、例えば米ニューヨークのマンハッタン中心部からJFK空港まで約5分で到着します。

――個人的には、まだ突拍子もないアイデアのように思えるのですが…。
マイナー:確かに、ダニエルに最初このクレージーな構想を聞かされたときは、私も軽い冗談だと思いましたよ。しかし、彼の構想と情熱を聞いていると、次第に挑戦意欲が沸いてきました。
 当時、私はミュンヘン工科大学でロボット工学の博士課程にいましたが、最終的にはそれを中断して、彼のクレージーなアイデア実現に手を貸すことにしました。他の創業メンバー2人も同じですが、今はそれぞれの専門分野の知識を持ち寄って機体開発を進めています。
 ちなみに、機体のメカニカルエンジニアリングを担当するセバスチャン・ボーンは機械工学の専門家であり、機体デザインを担当するパトリック・ネイサンは航空力学に精通しています。

――ロボット工学と飛行機の開発は関係するのですね。
マイナー:関係するどころか、現在開発中の小型飛行機はロボット開発そのものと言ってもいいです。センサーやレーダーを駆使して周囲の状況をリアルタイムに情報収集し、解析して機械を動かすという行為の本質は、飛行機もロボットも同じです。
 今後は、AI(人工知能)の技術が導入されていくでしょうし、すべてがネットワークにつながるようになります。飛行機であれロボットであれ、IoT(モノのインターネット)の構成要素となることに変わりはありません。
空飛ぶタクシー@成功
今年4月には、開発中の機体のテスト飛行に成功した
――開発の進捗はどうですか?4月には、機体の試験飛行に成功したと発表しました。
マイナー:テストでは、2人乗りの無人飛行機を地上から操作しました。垂直離着陸と簡単な飛行のテストでしたが、コンセプトとして温めていた機体が実際に空を飛んだという点で、大きな一歩を踏み出せたと思います。今はまだ結果の詳細を明かせませんが、我々のアイデアが着実に形になりつつあるという手応えを感じることができました。

競合は多いほどいい
――商用サービスはいつ頃になりそうですか。
マイナー:現状は、できるだけ早く、というコメントにとどめたいと思います。
 2人乗りの機体を試しましたが、最終的な製品は5人乗りを想定していますから、機体を大きくしてさらに実験を重ねる必要があります。そのためには、さらなる軽量化が不可欠で、細かく部品や設計を見直しながら、より軽い機体の開発を進めていきます。早い時期に、有人飛行のテストにも入りたいと思っています。

――ビジネスモデルはどのようなものになりますか。
マイナー:先程も述べたように、我々は純粋な機体開発メーカーとして機体の開発を考えています。我々の顧客として想定しているのは、鉄道やタクシーなどの運行会社です。
 ただ、我々もスマートフォンなどとの連携は想定して開発を進めています。
例えば、(下の写真のように)スマホのアプリで飛行機を予約して、乗りたいところに、この小型機が来る、といったライドシェアのサービスは既に想定しています。
空飛ぶタクシー@スマホアプリ
スマホのアプリとの連携も想定している
――同様の構想は、米ウーバー・テクノロジーズも4月に、カナダのボンバルディアと組んで空飛ぶタクシーの実験計画を明らかにしました。機体の開発では、同じドイツのスタートアップのVolocopter(ボロコプター)や、中国のEHang(億航)も開発を進めています。競争が激しくなってきました。

マイナー:未開拓の市場ですから、競合他社が増えているということはとてもいい傾向だと思います。確かに機体の開発や計画は次々と明らかになっていますが、空のモビリティは、まだ規制などの面において不透明な部分が少なくありません。
 現状は存在しない、こうしたルールを作り出し、あるいは既得権を打ち破るためには、参入企業は多いほど良い。我々の手掛けている事業は間違いなく破壊的なテクノロジーですから、今は参加者が多い方が進めやすい面もあると考えています。

 少し前までは想像の域を出なかった、空の新たなモビリティですが今は試験飛行を実施できる段階にまで来ました。一般の人が体験するまでにはもう少し時間はかかると思いますが、必ずその日が来るでしょう。技術や素材、起業家など、イノベーションの条件は揃っているのですから。


バードストライクの問題はクリアしたようです。パイロット免許は必要なのでしょうか。航空機として観てしまうと、安全飛行の為にはフライトプランと管制塔は必要だと思いますが・・・。明らかなことは、空の新たな交通事業はインフラ整備という(公共)投資を盛んにすることです。ケインズの有効需要論によれば、投資が与えられると貯蓄が投資と一致する水準になるように国民所得が変化します。つまり、投資増大→国民所得の増大→貯蓄増大、という決定関係になっているのです。加えて、シンギュラリティに向かってありとあらゆる産業が再定義される中での、交通&航空産業再定義のオープニングとなるに違いありません。

新しい佳き世の中の到来。楽しみですね。


大きな笑顔の佳き日々を。