平成時代 DNAの30年「読み解く」(3)を転載させていただきます。お楽しみください。
「読み解く」(3) 遺伝子解読難病治療に光
(読売オンライン 2018年01月19日)

ゲノム編集海外で臨床へ
 親から子へと受け継がれる全遺伝情報(ゲノム)の中には、病気の原因となるものもある。人のゲノム解読によって病気と関係する遺伝子が次々に見つかってきている。
 成長期に筋肉が育たず、知的発達の遅れも伴う難病「福山型筋ジストロフィー」は、東京女子医大名誉教授の福山幸夫(2014年に死去)が1960年に初めて報告した後、長く原因不明だった。

「日本人の名前がついた病気は日本人の手で何とかしたい」
と語る戸田教授(東京都文京区の東京大で)

DNA3-1 「何とか治療法を見つけてあげたい」

 東京大教授の戸田達史(57)は約30年前、勤務先の病院で初めて患者たちと出会った。ほとんど動けない体でもベッドの上で明るく話そうとする姿に突き動かされた。
 89年、患者や家族の血液からDNAを抽出して病気の原因遺伝子を見つけ出す方法があることを、たまたま参加した研究会で知り、「これだ」と思った。
DNA3-2 全国数百か所の医療機関に手紙で協力を求め、訪ねて採血。地道な解析を続け、98年、原因遺伝子を突き止めた。筋肉の維持に必要な酵素を作る遺伝子に、別の遺伝子の断片が入り込んで、酵素がうまくできなくなっていた。
 大阪大や神戸大で研究を続けた戸田は、製薬会社と共同で治療薬の候補物質を合成し、動物実験を続けている。人への効果は未知数だが「実用化したい。薬を待ち望んでいる患者や家族のため、失敗は許されない」と力を込める。

 病気の原因遺伝子の機能を補う「遺伝子治療」の試みは、90年代後半に始まった。当初は技術が未熟で、重い副作用が報告され、研究は度々中断したが、近年は神経難病のパーキンソン病など幅広い分野で臨床応用に向けた研究が進む。
 中でも2000年代から急速に進歩した、遺伝子を効率良く改変できる「ゲノム編集」の技術の応用では、米国が先行する。09〜14年、エイズ患者12人に世界初の治療を実施。患者の血液から免疫細胞を集め、ゲノム編集でエイズウイルス(HIV)が感染しない細胞に変えて体内に戻すと、大半の患者で体内のウイルスが激減した。
 中国でも16年以降、がん患者の免疫細胞をゲノム編集で活性化させて治療する試みが進んでいるという。
 これに対し、日本での動きは鈍い。血友病などのマウスをゲノム編集で治療する基礎研究は行われているが、副作用への警戒感などから、臨床応用のめどは立っていない。
 米中などでは、人の受精卵にゲノム編集を施し、誕生前に遺伝病を治す基礎研究も始まっている。日本では、基礎研究の実現を前提としたルール作りが始まったばかりだ。
 遺伝子治療に詳しい大阪大教授の金田安史(63)は「遺伝子を操作する医療がどこまで許されるのか、真剣に考える時代に入った」と指摘する。

 一方、病名がはっきりしない難病などの診断にゲノムを活用する「遺伝子診断」は、全国の大学病院などに広がっている。
 鳥取大病院(鳥取県米子市)は14年、実際の診断に最新装置を導入。患者の血液を調べ、約4800種類の遺伝子で変異がないか確認している。実施した53人のうち、23人で神経難病などが特定できた。
 ただ、治療方法がない現実を突き付けられたり、患者の家族も将来、発症の可能性が高いと判明したりする場合も。同大学教授の難波栄二(61)は「患者や家族にとって不利益になる場合もあることを十分に理解してもらう必要がある」と話す。

◆弥生人から受け継いだ「変異」
 福山型筋ジストロフィーの原因となる遺伝子の変異は、2000年以上前の弥生時代に、たった一人の体内で起こり、子孫に受け継がれたものだった。DNAの解読から、そんなことまでわかるようになってきている。
DNA3-3 戸田らが特定した原因遺伝子は、12人の患者とその家族のDNAを解析した結果、見つかった。
 遺伝子に生じた変異の仕組みが同じだったことから、共通の祖先から受け継いだとみて、さらに100人以上の患者についても詳しく調べた。その結果、変異は今から約100世代前に、1回だけ起きたことが判明。1世代を20〜25年と推定すると、弥生時代にあたる2000〜2500年前まで遡る計算だ。
 現在、日本人の90人に1人が同じ変異を持つが、病気になるのは父、母の双方から受け継いだ人だけ。患者は推定1000〜2000人という。
 小学2年の長男(7)を患者に持ち、家族会に参加している東京都江東区の女性は「患者や家族たちは、同じ遺伝子を持つ遠い親戚同士。励まし合いながら生きている」と話す。
(敬称略)