「藤原さんへの公開メール」と題されたフリーランス・ジャーナリストーの藤原肇博士(1938年生)と会計士の山根治氏(1942年生)の対話記事を通じて、私たち読者は intelligence のエッセンスを知ることができます。山根治ブログ 2023年4月14日号(http://yamaneosamu.blog.jp/archives/19056923.html)から転載させていただきます。「人生は短く、人為は長く、機会は逃げやすく、実験は危険を伴い、論証はむずかしい。医師は正しと思うことをなすだけでなく、患者や看護人や外的状況に助けられることが必要である」“Life is short, and Art [of medicine] long; the crisis fleeting; experience perilous, and decision difficult. The physician must not only be prepared to do what is right himself, but also to make the patient, the attendants and the externals cooperate.” と例えられるアフォリズムがお二人の交流から伝わります。
コメント・メール(69)です。
山根治さま
世襲代議士の横行により、政治が利権化したために、日本は没落への急転直下で、現在の無惨な国になり果てたが、小泉と安倍による長期政権は、日本をどん底に突き落とし、後進国の仲間入りをしたのである。しかも、保守本流の宏池会に属す、岸田に政権が移ったのに、世襲議員の弊害は同じであり、無能と腰抜けは変化せず、売国政治を繰り返して、世界中に恥を晒しているが、これは末期症状に他ならない。
世襲議員の巣窟になった政界は、安倍の長期政権のせいで、贔屓政治(nepotism)の蔓延により、無能な大臣が続出して、政治の劣化が著しく進み、至る所にゾンビが跋扈し、魑魅魍魎の祭り事になっている。自民党が邪教に乗っ取られ、格差の拡大が進む中で、国民の大半が貧しくなって、売国行為が蔓延しており、暴政が日本の社会を包み込み、国民は未来に希望を持てず、閉塞感が日本列島を覆っている。
オタゴ大学の将基面教授は、「暴政」という日本語に関し、『反暴君の思想史』の中で、次のような説明をしているが、この政治用語が日本において、馴染みが薄い理由として、次のような背景があると述べる。「・・・【暴政】は今日の日本では、 あまり聞きなれない用語であろう。・・・『広辞苑』には【暴政】が、【暴虐な政治】のことを意味すると記し、『大辞泉』でも 【人民を苦しめる暴虐な政治】とあり、・・・【暴政】は政治学用語として、英語のTyrannyの訳語だが、Tyrannyは古代ギリシアの僣主に由来し、現在の政治学用語として、専制政治や独裁政治を意味するので、世襲代議士が君臨する日本は、独裁的な体制の支配下にある」と書く。
政権与党の代議士の多くが、国民の幸せを考えないで、外国のカルトの教祖を崇め、大臣の大半が邪教の教義に従い、政治路線を決定しており、国益を損なっているのに、そんな酷い暴政が罷り通っている。それを批判する国民の声が、至って弱い理由としては、首相だった安倍が言論界に対して、懐柔と弾圧工作を試み、自ら邪教の広告塔の役を演じ、売国行為に明け暮れたからで、それに天誅が下っている。
こうした異常事態の常態化が、統治における王朝化を促し、民主的な政治を破壊して、権力が腐敗の度合いを強め、最後にカタストロフを招き、国家が死滅することは、政治学における基本原理である。民主的な共和制から、独裁的な帝国体制になり、それが暴政化して破綻し、破滅するに至るプロセスに着眼して、政治学者は歴史法則を導き、政治における病理学の形で、体制の遷移理論を作り上げた。
ハーバード大学のダニエル・M・スミス准教授は、『王朝と民主主義』の中で、「政治家一族以外の人々が、政治参加を妨げられることは、民主主義にとり大きな障害だ。また、特定の一族の利益のために、政治が行われることは、民主主義の観点から大きなデメリットとなり、腐敗につながることになる。しかも、議員の世襲にはメリットがなく、汚職や怠惰を始め無責任など、最悪の事態が顕著に現れ、国民の利益を大きく損ない、国家の没落につながるから、世襲制は有益ではない」と指摘する。
『自由の歴史』の著者のアクトン卿は、「Power tends to corrupt and absolute power corrupts absolutely」と言い、この言葉は有名であるが、これはライフサイクルが持つ、生成、発展、衰退、滅亡の推移を示す。停滞や固定は腐敗を生み、死滅への一里塚であり、新陳代謝が生理現象として、変化せずに固定化すれば、死に至る危険信号であるが、世襲代議士や長期政権は、格差の固定化で死ぬのである。
苫米地英人は『世襲議員の巨大な差別』で、世襲制がいかに異常かについて、「実際、今の国会には民主主義がないんです。また、2021年8月10日現在、全国会議員の約28%が国会議員と三親等以内の現職であることから、今の日本には民主主義がない。しかも、総理大臣は何十年も前から世襲議員です。宮澤喜一、橋本龍太郎、小渕恵三、小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎はすべて世襲議員である。菅義偉など数人は世襲ではありません。ただし、菅内閣の閣僚20人のうち、12人が世襲であるとされている。安倍内閣も世襲が多く、麻生内閣も世襲が多かった。安倍内閣の過半数も世襲であり、麻生内閣の過半数も世襲であった」と指摘する。
しかも、スミス説の結論と同じで、「日本は世襲の人数が多すぎる。ドイツ、アメリカ、イスラエル、ニュージーランドで、下院議員の世襲率を調べたら、1995年から2016年までの間で、ドイツの世襲率は2%未満。比較的多い米国でも6~8%で、他の先進国もおよそ10%未満です。ところが日本の場合は、実に25%が世襲議員だった」の指摘は、世襲制の酷さを証明する。この「日本病」を克服しない限りは、日本は没落するだけだし、少子化を伴う人口減少と共に、国力の大衰退による悲劇で、亡国の危機は焦眉の急だが、最優先の課題をミスすれば、数年後に阿鼻叫喚が襲来する。
生命体の末期は退嬰化が進み、新陳代謝がなくなることで、役職や地位が世襲化し、外部の人間が排除されるから、実力競争が消えてしまい、動きがなくなって腐敗が進み、最後の段階で破断界が出現する。これが「死に至る病」であり、臨終を告げる症候群だが、日本の酷さは抜群だとはいえ、米国でもそれが始まって、共和国としての精神が消え、大統領の世襲化が進み、世界覇権の終りの到来を告げている。
八年続いたクリントン政権後に、復活した共和党により、ブッシュ王朝が登場して、ネオコンによる支配が引き継がれ、ブッシュ政権は戦争屋を閣僚に集め、無謀な侵略戦争に終始し、自滅する路線を突き進んだ。米国の民主党と共和党は、対立の関係に見えても、ソ連の政治史を鏡に使えば、グローバリズムのトロッキーと、自国優先のスターリニズムが、資本主義体制の米国で、張り合っている鏡像関係である。
資本は英語でCapitalであり、マルクスは『資本論(Das Capital)』で、財貨としての貨幣と共に、富としての価値の違いを識別し、商品と結ぶ通貨問題は、豊かさを示す富に直結せず、異なる概念だと論じている。通貨は信用制度に基づく、リニアー発展の法則に従う、拡大再生産の体質を持ち、量に属す財貨の大きさの問題は、生活の質に関わる豊かさに、直接に結びつかないが、経済学者はそれに気づかない。
領土を持っている王国が、土地を信用の担保にして、通貨発行する手口を使い、金融の操作を行うだけで好景気を謳歌し、国民を熱狂させ得るのだと、経験に富むゲーテは、『ファウスト』の第二部で物語る。ワイマール公国の政務官で、鉱山開発の責任者だったゲーテは、信用の錬金術がいかに有効かを熟知し、秘策を国王や元帥に向けて、メフィストフェレスに言わせ、金融操作の秘密を暴露している。
「黄金や真珠の代わりになる紙幣は、扱いが楽で見ただけで価値が分かり、値切ったり換金をしに行く必要もなく、可愛い女や葡萄酒にも、陶酔することができる。硬貨が欲しければ両替商に行けば良く、硬貨の用意がない時は、地面から掘り出す財物を処分し、紙幣として支払えば良い。厚かましくバカな懐疑論者は、恥ずかしい思いをするだけで、これに慣れてしまえば、以前の方法には戻れないから、今後は帝国の領土内では、宝石、黄金、紙幣の不足には困らない」
ゲーテの作品の愛読者は多いが、「皇帝の居城」での対話に、秘められたメッセージが含む、資本主義の持つ金融の役目や、信用操作の弊害に関して、深い洞察を読み取った人は、これまで余り登場しなかった。特に経済学者の中から、それを論じた者が現れず、看過されてきたことに関しては、「裸の王様」の物語に比べて、自明な真理への理解が、濁った眼には見えないと、強く意識させられるのである。
リニアー法則に支配され、拡大再生産を続けるので、資本主義体制は行き詰まり、タコが自らの足を食べるように、自滅への道をたどることは、エクセルギーを知る者なら、言わずもがなの自明の理だ。だから、初期の参加者だけが儲かる、ピラミッド型の投資話が、数学的に詐欺に属すので、健全な近代国家において、ポンジ金融として禁止され、自制力を保っていたのに、ウオール街がこの禁じ手を破った。これは資本主義において、禁断現象を伴うために、倫理的な自制力が機能し、社会の徳性とされていたが、オピオイド現象の流行で、欲望の解放と結びつき、パンデミックの蔓延を発生させた。
これは資本主義の持つ生理が、出資資金の運用法として、投資資金と利息の関係で、1):収入で元利合計を回収する「投資金融」、2):含み資産を収入にする「投機金融」、3):借り入れで利息を払う「ポンジ金融」がある。現在の資本主義の段階は、「ポンジ金融」が主流であり、これは別名ピラミッドと呼ばれるし、帳簿上の架空利益に基づく、虚妄金融に支えられて、米国を始め世界の経済システムが、虚構の数字で成り立つからだ。
新世紀に入り、ブッシュ・Jr.政権が誕生し、第一次ブッシュ政権に続き息子が大統領に就任したことは、ブッシュ王朝の誕生であり、建国の父たちが最も危惧した、アメリカの衰退を示す最悪の事態だった。さらにその後になって、2016年にはブッシュJR.の弟で、フロリダ州知事のジェブ・ブッシュが大統領候補になり、大統領職を私物化しようとしたが、予備選挙で敗北したお蔭で、米国の破綻は一時的に救われた。
しかし、2016年の大統領選挙では、ビル・クリントンの妻ヒラリーが、国務長官から大統領になろうとして、新たな王朝が生まれかけ、米国の政治は混迷を露呈し、共和国を作った理想は風化した。共和党から民主党へと政権は交代したが、その中核にはネオコンがいて、反ロシアのシオニストたちが、外交戦略のかじ取りを担い、国務省と国防総省を支配し、米国の一極支配の推進を図った。
確かに、初代の Prescott S. Bushは、鉄道王のハリマン家の息子と、共同で投資銀行のUnion Bank Corp. (UBC)を経営し、ティッセン財閥と親しく、ナチスに融資して財を築き、ブッシュ財閥の基礎を作り、息子と孫を大統領にしている。また、ビル・クリントンの経歴が、イエズス会系のジョージタウン大で、ギグリー教授の指導を受け、ローズ奨学生でオックスフォードに学び、帝国主義の訓練を施されて、大統領になったことから、王朝を築く候補にもなり得た。
それにしても、ブッシュ家やクリントン家が、王朝を作り上げる契機は、日本の歴代首相に較べて、危険の度合いは軽微だし、日本の酷さは格別だから、この弊害の解消を図ることは、最優先にすべき国家課題である。日本人は北朝鮮における、金王朝の世襲に注目し、その弊害について数え上げて、危険視して騒ぎ立てるが、それ以上に「病膏肓」に至り、瀕死に近い自国の状態に、気づかないのが不思議である。

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