8月14日の産経WEBによると、四国労働金庫の元職員から預金をだまし取られたとして、その被害者の方が四国労金を相手に損害賠償請求を求めた裁判で、高松高裁は、元職員の不法行為につき、四国労働金庫の民法715条に基づく使用者責任を認めました。原審地裁判決では、四国労金の使用者責任を棄却(否定)していたので、裁判所の判断が分かれた興味深い事例です。

高裁が使用者責任を認めた論点は、使用者責任免除の根拠となる「使用者が被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当な注意をしても損害が生ずべきであったとき」に該当する場合であったかどうか、ということです。

高裁は他の職員が、元職員の預金詐取の事実を予見できたか、または少なくとも上司や被害者に事情を聞くなどして損害を回避することができたはずだから、免除されるべき場合にはあたらないと判断しました。

民法上の使用者責任は、使用者側が監督責任がないことを立証しなければ認められてしまうものです。高裁の判断理由によると、社内における社員または上司(使用者責任との関係)の規範的行動に関する期待により、その企業の責任の有無が判断される、ということになります。

一方、地裁の判断は、元職員の不正行為についてはそこまで上司の行動に期待するのは無理というものでした。会社としては相当の注意をしても到底損害発生を回避することはできなかったというものであって、会社の使用者責任は追及できない、というものでした。

この事件は、元職員が懲戒処分を受けた後の犯行で、別の職員が預金手続きに関与していることから事業の執行について被用者性が認定されていたのだろうし、「社員としての規範的な行動」に焦点を当てて使用者責任を認めたのは明らかです。

「内部統制」の議論は、取締役の法的責任論、すなわち会社法上の善管注意義務違反にあたるかどうかとの関係で論じられてきました。

しかしながら、最近は会社法や金融商品取引法でも「内部統制システムの構築義務」が謳われていることから、取締役にはより高度な注意義務が課せられるようになりました。責任が認められやすくなったということです。

この裁判結果が示唆するところは、取締役の法的責任だけでなく、企業自体の法的責任の有無にも、内部統制に関する議論が影響を及ぼすのかもしれないということです。

内部通報制度の整備状況、業務プロセスにおける牽制システムやチェックシステムなどが整備されることで、部下や同僚または上司の不正行為の予防・発見の期待が、結果回避義務として「法的責任」へと結びつくと考えられます。

この裁判結果は、内部統制と法的責任に連関するリスクマネジメント法務のエクササイズとしてとしてご覧ください。