藤原肇博士が『紙の爆弾』(2019/7月号)に寄稿なさった小論をサイト宇宙巡礼より転載させていただきます。社会の木鐸たるこの小論をお楽しみください。
特別寄稿
安倍晋三は第一線から身を引き治療に専念すべきである 藤原肇 (「慧智研究センター」所長)
診断は観察が全ての始まり
診断は身体が表現する情報を読み、生理上の異常の原因を理解し、患者に施す適切な措置を決めるために、最も基本的な医療プロセスである。診断が正確に行なわれることで治療が始まり、判断力をつけるための厳しい訓練が、医療関係者に施されてきたことで、鍛えた人材を集めた制度として、文明の中に医療体系が定着した。
だが昨今、観察の軽視が医者の世界で目立ち、診断の基礎は患者の観察だのに、医師の多くがモニターを眺めて患者を見ないケースが増えた。 観察と診断は医療における基礎行為である。診断が全ての始まりであり、「望診」「問診」「聴診」「触診」などで、異常を発見し症状の判断を下し、次に処置を決めるのであり、医師の施術におけるイロハは"正しい診断"にある。
体躯や身振りを観察するだけで、人間の健康状態は判別できるし、目の輝きをはじめ顔色や声の調子から相手の精神状態を読み取ることは、誰もが日常生活で活用していることだ。
舌の色や神経反射によって、患者の健康を識別することは、漢方でも西洋医学でも共通の診断法で、最も親しまれたのが「触診」だが、医師に体を触られることによって、人間は患者としての自分を意識する。
かつては聴診器が医者のシンボルで、患者の胸や腹に聴診器を当て、音の反響で身体の内部の異常を感知し、この手法で病因を見つけ出し、それが診断における基礎になっていた。聴診器と呼ばれている道具は、接触して音を聞く装置である。治療の入り口としての記号の役割が、そこに象徴化されているのであり、同様に宗教家は太鼓を叩く行為によって、音楽家は弦や声帯を震わせ、自然との共振関係を確認している。
修験の山伏は地質学者の祖形で、手に持つ錫杖《しゃく じょう》で大地を叩き、その手応えで岩の金属含有や性質を知り、鉱山開発の調査に使っている。鉄道員は車輪を叩いて亀裂を調べていた。石や岩の含有鉱物や密度は、手ごたえで組成を感知できるので、私にはハンマーが聴診器の役を果たし、大地を相手に医業の仕事をしてきた。
生命活動の根源を司る腸管の役割
動物の腸管は口腔から肛門まで、管状の器官の総称であるが、大腸や小腸が主要器官を構成しており、食物の摂取や吸収をはじめとして、排泄作用までも担当しているし、それが生命活動の基礎を支えている。この腸管がさらに分化発達して、心臓や肺臓などの臓器になったし、生命体の基本を作り上げ、十数億年の進化のプロセスで、ホモ・サピエンスへと発展したので、腸管には生命の根源が宿っている。
日本の首相・安倍晋三は潰瘍性大腸炎を患っており、十七歳の時に発病したために、一九九八年には三カ月間も入院して、徹底的な治療を施されたが、慢性化して医療措置を受けている。六〇キロあった体重が四〇キロに減り、 ステロイド治療まで続けたので、未だに血便症に悩んでいるために、疲れる仕事は体力を損なうから、ストレスが厳禁であるのはいうまでもない。
副腎皮質のステロイド治療は、非常に多くの副作用を伴い、感染症や消化異常に基づいた、うつ病や異常興奮が現われるが、それはクッシング兆候(脳内圧が亢進した結果、全身血圧が上昇する現象)の観察で、健康状態の劣化を読み取ることができる。
ステロイドによる弊害には、睡眠障害を伴うことが多いし、副腎機能と異常なホルモン分泌で、冷静な判断ができなくなり、興奮や嗜好に変調が頻発するために、思考や行動に現れてしまい、首相の激務は危険な賭けになる。
健康な人でも激務は大変であり、重要な決断をするためには、冴えた判断と理解が不可欠だから、体調が健全でない場合には、責任ある仕事からは離れて、まともな精神の持ち主に代わる必要がある。
それができないのはエゴである、ということも理解しないまま、首相は感情にかられヤジを飛ばし、自分はまともだと思い込んでいるが、達人は異常事態だと見抜いている。
醜聞は「悪事千里」で世界に拡散
つき馴れたウソに自信があっても、無意識は支配することはできず、声のトーンを周波数分析にかければ、細胞レベルの変異がわかるし、それを捉えるメタ心理学の手法は、全世界に広まって利用されている。三十五年ほど前のことだが、中曽根康弘が訪米していた時代に、ホワイトハウスはNLP(神経言語法)を活用し、各国の要人の発言を分析しており、発言の真偽の判定に使っていた。
その頃に技術の訓練を受けて、私はアメリカで、それを裁判に活用した。アメリカは詐欺師の天国だから、非常に役に立つ経験だったが、最近は日本でもビジネス化して、NLP技術は隆盛を見せている。顔は望診する時の最初の対象で、国会で答弁する安倍の顔の筋肉は、欺瞞を隠すふて腐れが現れ、精神的な疲労で太っており、むくみが目立つと見る人が多いのに、医者でその指摘をする人がいない。
米国や中国の監視部門では、ヒューミント(人的諜報)による調査のほかに、映像や声紋分析を使うことによって、首脳人の健康度を調べている。兆候はいくら隠しても丸見えだから、読まれていると知るべきである。首相が口から出任せを言い、官僚が用意した原稿を棒読みし、書き込みに従って水を飲む仕草は、「悪事千里」で世界中に拡散している。
しかも、興奮して首相が喚き散らす上に、醜態を演じている安倍に対する世界の評価は、プレスリーの館でロカビリーを踊ってブッシュ大統領に笑われた小泉純一郎と同じ仲間扱いであり、侮蔑の目が安倍に注がれている。当の本人は気づかなくても、ストレスで疲弊している時は碌な判断ができないのである。
スターリングラードの敗北の後で、大本営を訪れた国防軍の将校は、ヒトラーについて次のように書いている。
「……目が膨れて頬に赤いシミが浮かんでいた。目の動きは減少し背中は曲り、左手の脚の痙攣が見られ、歩く時ひどく脚を引きずった。身体の動きはぎこちなく、興奮しやすくなっている。言い出したことは頑固に執着し、同じ思い出を繰り返し話し続けた。……」
疾病に苦しむ独裁者の姿には、共通の病理が現われるが、安倍が興奮して早口で喋りまくっている時に、自制力の衰退が目撃できるので、これはタダならないことだと心配になる。ヒトラーはパーキンソン病が亢進し、手が震えていただけでなく、精神の集中もできなかったために、彼を撮影した映像においては、手の部分の写真は放映禁止だった。
生命力を司る"腸"
紀元前三世紀に活躍したヒポクラテスは、ギリシャ・コス島に診療所を開いて治療し、医聖として敬われた名医であるが、彼は「すべての病気は腸から始まる」と言い、この言葉を医師たちは二千年も信じてきた。また、ノーベル医学賞を受賞した、ロシア微生物学者イリア・メチニコフ博士は、「死は大腸から始まる」と喝破したし、脳疾患をはじめとしてほとんどの病気の原因が、免疫に由来する腸疾患だとわかっている。
腸管の中には大量の微生物がおり、この複雑な体内環境をマイクロバイオームと呼んでいるが、身体の活動や感覚的な反応は、すべて体内環境の健康状態で決まる。大腸に住む百兆個の微生物は、生理機能や免疫システムを司り、腸の健康度に脳は強い影響を受けるのに、腸に重度の疾患を持つ人間が、首相として権力にしがみついて、重大な案件を決定するのは問題である。
西原克成博士は、多くの実験と解剖学的考察に基づき、画期的な新免疫理論を確立、『内臓が生み出す心』(NHKブックス)を著した免疫医である。自我が腸に宿るとする西原理論だと、健全な腸による代謝機能が、細胞のリモデリングを遂行するのであり、難病の潰瘍性大腸炎を患って、クッシング症だと誰にもわかる病人が、トップとして判定を下すのは、危険この上ないことである。
一億人の乗客を乗せた日本号が、不健康なパイロットの舵取りで、時代の激流の中を飛行することは、日航123号の運命に似た、不吉な未来さえも予想させる。
しかも、活況を呈していた中国経済は、成長が鈍化して景気が低迷し、シャドウバンクの破綻が著しいうえに、世界の市場は生産の過剰で、物が売れない状況が始まっている。ドイツ銀行はCDSを抱え、七〇〇〇兆円の債務超過であり、倒産は時間の問題だと言われて、行く手にリーマンショックより大きな金融破綻が待ち構えている。
社会を支える共通善に無知で、自分だけ正しいと信じる安倍は、ハリネズミのように身構えているが"狐の知恵"には無縁であり、複雑多岐な国際政治において、無知を露呈して外交を弄んでいる。合理的な判断による決定と叡智に基づく深慮を抜きにして、嫌悪の感情で動く安倍には、賢慮と結ぶフロネシス(実践的な知)がないし、目先の利害とネポチズム(縁故主義)に頼ることで日本丸を舵取っているが、その航跡は支離滅裂である。
ナチスがオーストリアを併合して、英国に亡命する途上のフロイトが、パリでマリー・ボナパルトに会った時に、「患者が病院を占拠したら、精神科医は逃げるだけだ」と嘆いたが、それと同じ状況に日本は置かれ、国の運命が危険に瀕している。
大腸を病んでラドン・ガスに頼っている人が、能力の限界を超えた形で、政治を弄ぶのは無責任であり、権力への妄執を断ち切って、日本丸の難破を避ける必要がある。
第一線から身を引き治療に専念すべし
一国のトップの健康が損なわれて、判断と洞察力が衰えることで、致命的な失敗をしたケースの代表に、フランクリン・ルーズベルトの高血圧症があり、それは「アルヴェルス病」に属す、自覚症状のない血管発作だった。これはパーキンソン病の仲間で、ヤルタ会談に臨んだルーズベルトはスターリンに引きずり回されたが、それを見たチャーチルは腹を立てて、「この老いぼれめ」と呟いたと言う。
同じパーキンソン病だった毛沢東は、ずり足をして歩いたために、ワシントンは直ぐそれを察知すると、異常事態が起きると予想して、次の状況に向けて手を打った。北京にいた外交筋のプロたちが、脳軟化症であると察知したが、英国はそれを効果的に使い、米国に教えて恩を売っているが、これが国際政治における常識である。
このような歴史の前例を見れば、病人は第一線から身を引いて、治療に専念するのが最大の貢献であり、いくら堅い信念に支えられても、劣化した健康の危険信号は貴重である。
自動操縦装置を備えていても、突発事故はよく起きるので、パイロットの異常事態に備えて航空機には副操縦士がいる。交代する者が皆無だと言い張り、党則を変えて任期まで変更し、独裁制の維持を続けたのは狂気の沙汰であり、日本人は想定外^の思考力がないのだ。
判断力が乏しくなったトップが、諫める力のない茶坊主に囲まれ、誤った路線を突き進むことは、破局の旅への一里塚であり、悲劇の道を突き進むことになる。
一時は世界に向け大見得を切り、軍事大国を誇ったソ連では、国内をボリシェヴィキが睥睨したが、それはベルリンの壁とともに崩れ、鉄のカーテンも地上から消えてしまい、千年王国の夢は雲散霧消している。
同じことが日本の運命に関係し、自公体制が絶対多数を誇っても、満月が欠けるのは自然現象であり、天の摂理が教えている通りだ。しかも、『平家物語』が伝えるように、「盛者必衰」は宇宙の法則であり、「わが世たれそ常ならむ」だし、病人や無能者は潔く身を引いて、姿を消すことが世のためになる。
藤原肇(ふじわらはじめ)
理学博士。フリーランスジャーナリスト。『さらば暴政』など著書多数。
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