
日曜のブランチ、台所に立つと、鍋からふんわりと漂う香りに足が止まります。昨夜仕込んだカレーが、静かに一晩を過ごしてくれていたのです。ふたを開けた瞬間、スパイスの香りがやわらかく、まろやかに広がり、「二日目がいちばんおいしい」と言われる理由を、舌で確かめる幸せがそこにありました。
今回は、少し気分を変えてS&Bの「プロ仕様 ディナーカレーフレーク」を使ってみました。1980年に業務用として登場し、カレー専門店やホテルでも愛されてきた本格派。それを家庭向けに仕立て直したのがこの製品です。特製フォン・ド・ボーの深い香りとコクが、外食クオリティの欧風カレーを家庭で再現してくれる――そんな触れ込みに惹かれて選びましたが、期待以上の味わいでした。
玉ねぎをたっぷり炒め、肉を加えて煮込むうちに、台所は香りの小宇宙に。ひと晩寝かせた今朝は、具材に味が染み込み、香りも深まり、まるでカレー自身が成熟したかのよう。スプーンを口に運ぶと、玉ねぎの甘さ、肉の旨み、ルーのコクがほどよく溶け合い、昨夜よりも調和のとれた味わいに。昨夜はそれぞれが自己主張していたのに、今朝はまるで打ち解けた仲間のように寄り添っている。カレーが一晩かけて「関係性」を築いたのだと思うと、どこか人間臭さを感じます。
出会ったばかりの頃はぎこちなく、互いの個性がぶつかり合うこともあるでしょう。でも、少し時間をかけてみると不思議と角がとれ、心地よい距離感に落ち着いていく。まるで二日目のカレーが深みを増すように、私たちの関係も時間を通じて“味わい”を増していくのだと。
フランスのモラリスト、ラ・ブリュイエール(Jean de La Bruyere, 1645–1696)は、人間全般について語ることのできた人物です。代表作『人さまざま(Les Caracteres, 1688)』の中で、こう記しています。
Le temps murit tout; il fait tout paraitre, il amene tout a la lumiere.
時間はすべてを成熟させる。それはすべてを明らかにし、すべてを光に導く。
時間はすべてを成熟させる。それはすべてを明らかにし、すべてを光に導く。

ラ・ブリュイエール『人さまざま』には時間の哲学を語る一節があります。
二日目のカレーを食べながら、この言葉の意味をしみじみと味わっています。
慌ただしい日々の中では、ついすぐに答えを求めてしまいがちですが、ときには一晩寝かせるように「待つこと」も必要なのかもしれません。時間が心の温度を下げ、冷静さや優しさを育んでくれる。その先に見えてくる景色は、昨日とはきっと違うのです。
「人もまた寝かせれば深みを増す」――スパイスの香りに包まれながら、そんな思いを胸に、今日もひと口、またひと口とスプーンを動かしました。



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